2025/03/29

InGeneron最新研究：UA‑ADRCsが切り拓く再生医療の未来

スタッフブログ

近年、幹細胞を使った再生医療が大きな注目を集めています。中でも、InGeneron社とオルト教授が研究・開発を進める「UA-ADRCs（未培養・自己由来・新鮮・無修飾の脂肪由来再生細胞）」は、従来の幹細胞治療とは一線を画す革新的なアプローチです。

今回は、2021年に学術誌『Cells』に掲載された論文「Towards a Comprehensive Understanding of UA-ADRCs in Regenerative Medicine」を紹介しながら、この治療法の可能性と特徴をわかりやすく解説します。

UA-ADRCsとは何か？

UA-ADRCsとは、「Uncultured, Autologous, Fresh, Unmodified, Adipose-Derived Regenerative Cells」の略称で、日本語に訳すと「未培養・自己由来・新鮮・無修飾の脂肪由来再生細胞」です。

これらは患者自身の脂肪組織から、治療当日にその場で抽出される細胞群であり、以下のような特徴があります。

培養を行わず、そのまま使用可能
遺伝子操作や外部刺激を加えない
多種類の細胞が自然なバランスで含まれる
自己由来のため拒絶反応のリスクが極めて低い

このような構成により、体内での自然治癒力を最大限に引き出すことが可能になります。

なぜ「細胞のバランス」が重要なのか？

従来の幹細胞治療では、特定の細胞（例：脂肪幹細胞、間葉系幹細胞）を選別・培養し、単一の細胞種を移植する方法が主流でした。しかし、この論文では次のように警鐘を鳴らしています。

「再生医療の効果は、単一の細胞ではなく、複数種の細胞が協調する“バランス”によって発揮される」

つまり、再生や治癒を促すには、「再生細胞」「免疫調整細胞」「血管新生細胞」など、役割の異なる細胞たちが絶妙なバランスで存在し、それぞれが相互作用する必要があるということです。

この“自然のバランス”こそが、UA-ADRCsの最大の強みです。

UA-ADRCsに含まれる細胞種

論文では、UA-ADRCsには以下のような多様な細胞が含まれていると報告されています。

間葉系幹細胞（MSC）
血管内皮前駆細胞
血管周皮細胞（ペリサイト）
免疫調整細胞（Tregや樹状細胞など）
線維芽細胞
マクロファージなどの自然免疫細胞

これらが組織の炎症、修復、再生、免疫応答の調整などに関与し、治療効果を支えます。

InGeneronの分離技術「Transpose RT」

再生医療での効果を高めるためには、「どのように細胞を抽出するか」が極めて重要です。

InGeneron社では「Transpose RT」という専用の遠心分離機と「Matrase」という酵素を組み合わせることで、他の方法と比べて以下のような優位性を持ちます。

高い細胞回収率
高い細胞生存率
処理時間は約60分以内
医療現場（Point of Care）での処理が可能

このような装置を使うことで、脂肪から抽出される細胞の“質”と“量”を両立し、再生効果を最大化できます。

論文から見える臨床的な可能性

この論文では、動物モデルや初期のヒト臨床データに基づき、UA-ADRCsが以下のような症状・疾患に効果を示していることが報告されています。

筋肉や腱の損傷
骨折や骨再生の促進
心筋梗塞後の心機能改善
皮膚潰瘍の治癒
神経障害の回復

特に、幹細胞単体では改善が難しかった複雑な組織損傷や慢性疾患に対して、UA-ADRCsの多様性が再生の可能性を大きく広げているのです。

なぜ今、培養しない細胞治療が求められるのか？

1. 法規制への適合性

日本でも、培養を伴う細胞治療は「特定細胞加工物」として規制が厳しく、承認取得に時間と費用がかかります。

その点、InGeneronの治療は「非培養・非遺伝子改変・即時使用」であるため、法的なリスクが小さく、医師主導型の臨床研究や自由診療での導入が比較的容易です。

2. 感染リスクや品質劣化を回避

培養を行わないため、細胞が変性したり、外部の微生物に汚染されるリスクが最小限に抑えられます。

今後の展望と日本への期待

オルト教授らのチームは、すでに複数の研究機関と連携しながら、神経疾患や糖尿病性壊疽など、より幅広い適応を目指した研究を進めています。

また、日本でもInGeneronの治療を取り入れようという動きが始まっており、今後の導入・拡大に大きな期待が寄せられています。

まとめ：再生医療は“細胞の質とバランス”の時代へ

これまでの幹細胞治療は「どんな細胞を使うか」に焦点が当たってきました。しかし、これからの再生医療で鍵を握るのは、「どのようなバランスの細胞を、いかに自然に戻すか」という視点です。

InGeneron社のUA-ADRCsは、まさにこのパラダイムシフトを体現する治療法と言えるでしょう。再生医療の未来に関心がある方は、ぜひこの新たなアプローチに注目してください。

※本記事は、学術誌『Cells』（2021年）に掲載された下記論文をもとに執筆しています。
“Towards a Comprehensive Understanding of UA-ADRCs in Regenerative Medicine”
DOI: https://doi.org/10.3390/cells10113152

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